遺伝子治療学
研 究 内 容
本社会連携講座では低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia:HPP)に対する新規治療薬(ARU-2801)の開発を行っている。低ホスファターゼ症は組織非特異型アルカリホスファターゼ(Tissue-nonspecific alkaline phosphatase:TNALP) の遺伝子の変異により引き起こされる遺伝性骨疾患である1)。発症年齢と臨床症状に基づいて6つの型に分類されており、周産期重症型、乳児型の生命予後は不良である。我々は長年にわたり低ホスファターゼ症の遺伝子治療の研究を行ってきており、現在までにTNALPを発現するレンチウイルスベクター2)、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus:AAV)ベクター3) の静脈内投与、AAVベクターの子宮内胎児投与による胎児治療4)、レンチウイルスベクターにより遺伝子導入された造血幹細胞移植5)、AAVベクターの筋肉内投与による治療6-9) などを試みてきており、Alpl遺伝子が欠損したHPP乳児型モデルマウス(Alpl-/-マウス10)を治療することにより重篤な副作用は無く、生存期間の延長,骨形成の改善などの治療効果を認めている(表1)。
表1. 低ホスファターゼ症の遺伝子治療研究
TU: Transduction Unit, vg: vector genome
これらの治療法の中で我々は一番簡便で安全性の高いと思われるTNALP発現AAV8型ベクターの筋肉内投与による治療法の開発を進めている。
ARU-2801はTNALPを発現する8型アデノ随伴ウイルスベクターで、現在再生医療等製品(遺伝子治療薬)として開発中である。ARU-2801のTTP(Target Product Profile)を表2に示す。
表2. ARU-2801のTPP(Target Product Profile)
一回の投与で治療が可能なARU-2801は低ホスファターゼ症の患者にとって延命効果はもちろんのこと、 ADL、QOLの改善につながる治療であると考えられる。
参 考 文 献
1) Henthorn PS, Whyte MP: Clin Chem, 38: 2501 (1992)
2) Yamamoto S et al: J Bone Miner Res, 26: 135 (2011)
3) Matsumoto T et al: Hum Gene Ther, 22: 1355 (2011)
4) Sugano H et al: Hum Gene Ther, 23: 399 (2012)
5) Iijima O, et al: Hum Gene Ther, 26: 801 (2015)
6) Nakamura-Takahashi A, et al: Mol Ther Methods Clin Dev, 3: 15059 (2016)
7) Miyake K et al: Selected Topics in Neonatal Care. (Edited by R. Mauricio Barria, Published by InTech) 191 (2018)
8) Matsumoto T et al: Mol Ther Methods Clin Dev, 22: 330 (2021)
9) Kinoshita Y et al: J Bone Miner Res, 36: 1835 (2021)
10) Narisawa S et al: Dev Dyn, 208: 432 (1997)